新潟県にある柏崎刈羽原子力発電所で核物質防護対策の失態が相次いだことにより、原子力規制委員会は東京電力に対し、核燃料の移動を禁止する是正措置を命令する行政処分を実施しました。
事実上の再稼働禁止命令であり、再稼働を経営の柱とする東電だけでなく、脱炭素化に向けて原子力を利用したい政府の計画も崩れたことになります。
今回の是正措置命令が下された原因と今後について考えていきたいと思います。
3月31日時論公論~東電へ核燃料の移動禁止、事実上の再稼働禁止命令。崩れた計画。
是正措置とは、業務改善の命令のことで、現在の業務内容に重要な過失があった場合に発され、過失が改善されるまで一定期間従わなければならない。
再び明らかになった核物質防護対策の不備
今月2021年3月31日に実施された適正委員会の会合で、東電に対する是正措置(ぜせいそち)に対する詳細を検討し、柏崎刈羽原発内のすべての核燃料の移動を禁止することを決めた
是正措置命令は初めての実施で、規制委員会の更田委員長は「規制委員会の発足以来、最も大きな判断」だとしている
今回のきっかけとなった核防護の不備は、誰がみても不十分だったと判断される内容だった
原発はウランなどの核物質を扱い顕在的な事故リスクもあり、テロリストなどの悪意ある第三者が侵入しないように施設や周辺、地域を守るために高いセキュリティで防護されるべきとされている
センサー付きのフェンスやゲート、監視カメラなど何十にもなる防護設備が義務付けされている
2月に実施した規制委員会の検査で、この1年だけで15カ所の防護設備が故障し、10カ所は長期間放置されていたため第三者が侵入する恐れがあったとしている。
東電は代替措置を取っているとしたが、警備が手薄になりがちな夜間に規制委員会が抜き打ち検査を実施したところ誰がみても不十分で実効性のない措置だったとしている。
不備は常態化していたとみられ、四段階評価で最悪な評価としている。
柏崎刈羽では社員が別の社員IDを無断で持ち出して、核心臓部である中央制御室に不正で侵入したことが明らかになったばかり。
核防護対策の相次ぐ失態は、東電の安全保障対策が不十分であることを示している。
狙われやすい核燃料の移動を禁止するのは、当然の対応。
規制委員は、深刻な事態が相次ぐ原因を調べるために特別な検査を今後実施する方針。
核燃料の移動を禁止する措置は、検査が終わり防護体制が万全になるまで続く。
1年以上、原子力に燃料を入れられない見通しで今回の処分は再稼働を事実上長期間禁止する重い処置となる。
崩れたシナリオ
国のエネルギー政策に影響を及ぼすことは必至
今回、東電に是正措置命令が出されたことで、予定していた経営再建計画として掲げている内容から計画していた内容も対応が困難になってきている。
①福島の事故処理の計画が崩れる
福島再建には、22兆円が必要
・22兆円のうち、16兆円を負担(毎年4,500億円の利益を上げる目標を掲げている)
・原発1基を稼働できれば、1,000億円の利益を見込める
⇒柏崎刈羽原発の再稼働が切り札だった(シナリオの実現は困難)
・除染にかかる4兆円に関しては、政府が取得している東電株を売却することで賄う予定
⇒廃炉の見込みも立たず、東電の株価は10年間も低迷し上がる見込みがない(シナリオ困難)
*原発に頼らない再建計画が必要!!
②エネルギー政策の計画が崩れる
政府の経済産業省は、今年1月までの1年間に80回も資源エネルギー庁幹部を新潟県に派遣していた
そして、地元関係者と面会を重ねて、原発再稼働へ地ならしを進めていた
長官も自民党の県議団とエネルギー政策に関する勉強会を開催するため4回訪問していた
ここまで力を入れていたのは、柏崎刈羽原発の再稼働が他の原発とは違う大きな意味を持っていたから
⇒事故を起こした東電が地元の理解を取り付けて再稼働できれば、福島の事故で失墜した原発がある程度回復できたと少しでも信頼を取り戻し他の再稼働への弾みにもなるのではないかと期待されていた
*原発再稼働を予定することで、2050年までの脱炭素社会への実現に向けて、運転中にCO₂を出さない原発を利用することで達成可能と国際的にも発表している
◇電源構成参考地
再生可能エネルギー:50~60%、原子力+火力(CO₂回収)30~40%、水素など10%
*原発を最大限利用する方針だった
⇒ この夏にも改定するエネルギー基本計画の議論を進めてきたが、今回の処分でエネルギー政策のシナリオも崩れた。
新潟県では、相次ぐ失態に再稼働への理解を示していた自民党などの関係者も、東電に再稼働する資格はあるのかと疑問視する意見も上がってきている
*柏崎刈羽原発の再稼働は全く見通せなくなってしまった
*原発を最大限利用する方針は、東電が運用している限り期待できず、原発の位置づけを再検討する必要もあるのではないか
10年前、津波による事故への防止を検証せず莫大な事故を起こし安全防止の重要性を認識したにもかかわらず、未だに安全防止対策が不十分な東電に運転を任してもいいのか、今回の是正措置命令は東電が未だに安全防止が徹底されていないことを示しています。
原発は運転を止めていてもテロに狙われれば、原発だけでなく周辺地域全体にまた膨大な影響を及ぼします。今回の命令によって改善されなければすべての計画が立ち行かなくなるだけでなく、周辺地域への安全が脅かされている状況であることを認識しなければいけません。現場への意識レベルを上げ、社員全員が安全への意識改革を徹底していかなければ問題が解決されません。
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